珈琲山居のブログ

京都市の珈琲店、珈琲山居(こーひー・さんきょ)です。こちらのブログから、お店に関するお知らせや日々のあれこれをお届けします。

ビギナーズ/レイモンド・カーヴァー、村上春樹訳(中央公論新社 2010)

 初期の短編集「愛について語るときに我々の語ること」のオリジナル原稿をまとめた一冊。引っ越し前、最後に買ってそのままにしていたのをようやく読み終えた。

 ファンにはお馴染みのエピソードだけれど、「愛について~」は当時の担当編集者ゴードン・リッシュによる"heavy editing"の産物であり、元の内容から随分と中身が削られて出版されたと。かようにスキャンダラスな話がカーヴァーの没後に判明し、それからオリジナル原稿が発掘されたりして、最終的に本書の形でオリジナル版が日の目を見るに至ったと*1

 オリジナルの切り刻まれ方は相当なものだったようで、本書は「愛について~」の倍くらいの厚さがある。「愛について~」は、読んでいてどこか不穏というか、唐突にブチっと途切れたりする感覚があり、発表当時は、それを“ミニマリズム”などの括りで好意的に受け取る向きが多かったようだ。それでもカーヴァーの後期の短編が好きな人なら総じて本書に収録されたオリジナル版を好むのではないかというのが読後の印象。特に表題作は断然こちらを支持したい*2

ビギナーズ (村上春樹翻訳ライブラリー)

ビギナーズ (村上春樹翻訳ライブラリー)

 

*1:うろ覚え。そのあたりの話は、『誰がレイモンド・カーヴァーの小説を書いたのか?』(D・T・マックス著、村上春樹翻訳ライブラリー「月曜日は最悪だとみんなは言うけれど」所収)や、カーヴァーの分厚い伝記(「レイモンド・カーヴァー - 作家としての人生」キャロル・スクレナカ著)に詳しい

*2:「愛について~では」印象的なエピソードがごっそり削られている